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働かせるが定住はダメ...政府が新創設する「外国人在留資格」の問題点

  • 経済
2018.04.16
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人口減少が進む日本で、労働力不足は大きな課題である。近年ではコンビニ等で見られるように外国人労働者が急増し、移民に関する議論も盛んになってきた。
しかし、外国人技能実習制度の問題もたびたび指摘されている。そんな状況で、日本政府は新たな在留資格をつくろうとしている。
日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長・望月優大氏が、その狙いを解説し、問題点を整理する。

外国人労働の本格拡大にカジを切る

政府が来年4月に「特定技能」という新しい在留資格の創設を検討していることが日経新聞によって報じられた。

外国人労働力のさらなる確保が目的だという。労働力不足を何とか解消しようとする政府の焦りのようなものが感じられるが、その焦りがこの国の歪みをさらに加速させてしまうのではないか。そんな懸念をもった。

"政府は2019年4月にも外国人労働者向けに新たな在留資格をつくる。最長5年間の技能実習を修了した外国人に、さらに最長で5年間、就労できる資格を与える。試験に合格すれば、家族を招いたり、より長く国内で働いたりできる資格に移行できる。5年間が過ぎれば帰国してしまう人材を就労資格で残し、人手不足に対処する。外国人労働の本格拡大にカジを切る。"
外国人、技能実習後も5年就労可能に 本格拡大にカジ:日本経済新聞

本題に入る前に、前提情報を簡単にまとめておこう。

昨年10月末時点の日本における外国人労働者数は、企業からの届け出ベースで約128万人。5年前の68万人と比べて2倍近くまで急増している。

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厚労省:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成29年10月末現在)
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厚労省によると、外国人労働者の内訳は主に4つのカテゴリに整理される。

それらを現時点で人数の多い順に並べると

1. 身分に基づく在留資格(約46万人)
2. 資格外活動(約30万人)
3. 技能実習(約26万人)
4. 専門的・技術的分野の在留資格(約24万人)

となる。

これら4つのカテゴリとその他を含めて合計すると128万人になるというわけだ。

最も人数が多い「身分に基づく在留資格」は、永住者、永住者や日本人の配偶者、そして定住者などで、定住者には日系人が含まれる。

バブルで労働力が不足していた90年代初頭の法改正によって、数多くの日系人がブラジルやペルーなどから日本の工場で働きにくることになった。

現在でも静岡や群馬、神奈川など、製造業の拠点に日系人が集住する場所がいくつもある。

2番目に人数が多い「資格外活動」の多くはいわゆる留学生だ(30万人のうち26万人)。

近年コンビニや居酒屋、ファストフードなどで外国人のアルバイトを見かけることが多くなったが、彼らは日本語学校や専門学校、大学で勉強をしながら、その合間にアルバイトをして学費や生活費を稼いでいる。

法律上週28時間以内までなら「資格外活動」としての就労が許可されており、政府が公式には認めていない「単純労働分野への外交人労働力の受け入れ」を暗に認める構造になっている。飲食や小売、宿泊などサービス業が大勢を占める。

「技能実習」が抱えるいくつもの問題

3番目に人数が多いのが、今回の話題に大きく関連する「技能実習」だ。

製造業と建設業で働く者が全体の76%を占めるため、留学生と違って日常生活ではその存在がなかなか見えづらい。

建前上は、アジアの途上国から先進国である日本に「技能を学びに来ている」ことになっているが、実際には労働力不足の受け皿という側面が非常に強い。

農業や漁業、介護など日本人の労働力不足が叫ばれる様々な業種においても技能実習生たちは働いている。

問題なのは、彼らが日本に来る際に必要な費用を払うために多額の借金をしている場合があり、加えて転職が不可能であるという条件のため、あてがわれた企業との関係で彼らが構造上非常に弱い立場に置かれてしまうのである。

結果として、その弱みに漬け込んだ最低賃金違反、手当の未払い、強制帰国など、技能実習生に関する残念なニュースは枚挙にいとまがない。近年は実習生の失踪が急増し、過労死についても報じられている。

縫製業者:実習生への最低賃金違反相次ぐ 岐阜、愛知で - 毎日新聞
外国人実習生の失踪急増、半年で3千人超 賃金に不満か - 朝日新聞デジタル
実習生3年で22人労災死 外国人技能制度、過労死も - 共同通信
有給希望の実習生に強制帰国 千葉の受け入れ団体 - 共同通信
ベトナム人技能実習生の手当、大半を未払い - 読売新聞

しかしと言うべきか、さらにと言うべきか、こうした状況が報じられているにも関わらず、むしろコンビニ業界など産業側からは技能実習の「対象職種」拡大が要請されている。昨年11月には介護業種への拡大が実際に行われた。

ローソン社長「外国人技能実習は必要。コンビニ追加を」 - 朝日新聞デジタル
外国人実習生、介護に人材 11月から職種拡大 指導に戸惑う施設も - 西日本新聞

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〔PHOTO〕gettyimages

「技能実習の延長版」というアイデア

押さえておくべきは、今回政府内での検討が報じられた「特定技能」という在留資格が、この悪名高い「技能実習」を前提とした「技能実習の延長版」とも言うべきアイデアだということだ。

要するに、「技能実習」の期間(2016年に最長3年から5年に延長:参照)を終えた後に、さらに最長5年間の「特定技能」への切り替えを可能にするというのだが、現時点で見る限り後者は前者にとてもよく似ていて違いを把握する方が難しいのである。

転職の可否などまだ方向性が明らかになっていない論点もあるが、いずれにせよ5年の技能実習が前提というポイント自体は残るだろう。

加えて見逃せないのが、5年プラス5年の在留によって永住権申請の要件の一つ「引き続き10年以上の在留」をクリアしてしまわないよう、「技能実習終了後に一定期間母国へと帰還すること」を在留資格付与の要件とするという点だ。

これが意味しているのは、技能実習生が労働可能な期間を倍に引き延ばすことで、安価に確保可能な労働力を倍増させつつ、日本での「定住」やそれにつながる「家族の呼び寄せ」などは許したくないというこの国の姿勢である。

単身の労働者を一定期間、最長10年に渡って低賃金で働かせ、その期間を終えたら来日時と同じく単身のまま母国に帰ってもらう。そして、入れ替わりに新しい単身労働者を入れていく。

家族やコミュニティの大切さ、孤立や無縁社会の厳しさが盛んに訴えられる現代において、時代錯誤的に「単身で・いつか帰る・外国人労働力」のあり方に固執する。こういうビジョンが根底にある。

より”都合の良い”技能実習資格

前触れはあった。

今年2月に「外国人労働者の就労拡大」について政府の経済財政諮問会議で首相から検討開始の指示が出されていたのだ。

外国人労働者の就労拡大 首相が検討開始を指示 単純労働者の増加には懸念も - 産経ニュース

2月の段階では「『専門的・技術的分野』の在留資格に関して対象の拡大を目指す」とされていた。

この「専門的・技術的分野の在留資格」というのが、先の4番目の在留資格で、この資格を持っているものは家族呼び寄せが可能、かつ永住に関する優遇の対象にもなる。技能実習に比べてはるかに自由度が大きい。

しかし、2月の同じ報道には、同時に「国籍取得を前提とする『移民』につながらないよう、在留期間を制限し、家族の帯同も基本的に認めない」という記述もあった。

ここには明らかな矛盾があることにお気づきだろうか。

つまり、「専門的・技術的分野の在留資格」を対象拡大・要件緩和すると言いながら、在留期間は制限するし家族帯同も認めないということも同時に言っていたのだ。

「専門的・技術的分野の在留資格」では在留期間の更新も可能だし、家族の呼び寄せも可能である。それを不可能にすると言っているわけだから、大きな矛盾をはらまざるを得ない。

今回報じられた「特定技能」というアイデアは、この2月時点での矛盾に対する一つの答えになっているのではないか。

つまり、労働力不足を解決するために、「専門的・技術的分野の在留資格」を対象拡大・要件緩和するのではなく、より”都合の良い”(=在留期間が制限可能かつ家族帯同なし)技能実習資格での滞在可能期間を実質的に倍増する、こういうアイデアへと思考が転換していったのではないか。外形的にはそのように見える。

政府は「移民」という言葉を避けている

最後に改めて問題を整理する。

自動車工場、居酒屋、農家、介護施設。日本の様々な産業で「人手が足りなくなっている」のは事実だろう。少子高齢化が進むこの国で、人口全体に対する生産労働人口の割合は減っていく趨勢にある。

政府が女性や高齢者に「活躍」を促しているのも、外国人労働力の受け入れ拡大の議論がなされているのも、基本的にはこの一つの同じ文脈の上でのことだ。

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労働力調査の「就業者数」と前出厚労省調査の「外国人労働者数」を単純比較してみると、後者が増えるにしたがって「全就業者に占める外国人労働者の割合」も年々増加し、今や2%に迫る状態だということがわかる。

現在政府が進めているとみられるアイデア、それは、日本の人口が減少していく中で、「単身で・いつか帰る・外国人労働力」の受け入れをなし崩し的に加速していくというものである。

しかし、あくまで彼らは「労働者」という位置付けで、政府は「移民」という言葉を意識的に使わないようにしている。

社会が誰かを「人間」として扱うということは、働く存在としてだけでなく、結婚し、家族をもち、子どもを育て、学校に行き、具合が悪ければ病院に行き、老いれば年金を受給する、そうした全生活的な存在としてその人を受け止めるということである。

日本に生まれた日本国籍保有者は誰であれ皆そのような存在として扱われる(ことになっている)。

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〔PHOTO〕iStock

では、外国人はどうなのか。

一部の外国人について、この国はそのコストを支払わずに済ます道を探ろうとしているように見える。しかも、「彼らの力が必要だ」と認識している、まさにその時にである。

外国人も人間だ。「2級市民」のような扱いをすることは、彼らがいつか母国に帰るとしても、日本になんらかの経緯で定住するとしても、いずれにしても良い方策だとは思えない。

人手が足りないのはわかった。それは前提条件である。

しかし、だからと言って何でもありではないこともまた自明ではないか。

都合の良い労働者ではなく、一人一人の人間について考える――そういう移民政策が、今こそ必要ではないだろうか。

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