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【Beyond 2020(50)】復興庁は何をしたのか。元事務次官が語る国の”責任”

  • 経済
2018.04.17

内閣官房参与・福島復興再生総局事務局長 岡本全勝

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒、自治省(当時)に入省。東日本大震災後は、東日本大震災・被災者生活支援本部事務局次長、同復興対策本部事務局次長を経て、2012年に復興庁統括官、2015年に復興庁事務次官に就任。2016年から内閣官房参与、福島復興再生総局事務局長。慶應義塾大学法学部で講師も務める。

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ー”あれから”変わったこと・変わらなかったことー

「個人ボランティア」から「組織ボランティア」へ

見渡す限り瓦礫に埋もれた7年前の景色から、私は今日の姿を想像することはできなかった。「いつになったら、片付くのか」。現地の首長たちと話しながら、茫然自失したことを今でも覚えている。ある人は、「瓦礫を撤去するだけで数年はかかる」と言っていた。当時の現場を知っている人なら、まさかここまで町の姿が変わると予期できた人は、誰一人としていないだろう。

そんな途方に暮れる中で動き出した、復興への道のり。町の賑わいを取り戻すのには、インフラ再建だけでは不十分で、産業が復活しない限り地域は食べていけない。コミュニティの再生もそうだ。インフラ再建は行政が担える。しかし、産業とコミュニティの再生は行政だけでは難しい。そこで力を発揮したのが、NPOと企業だった。

特にNPOの社会的な認知と影響は、この震災を機に一気に広がった。後に「ボランティア元年」と記憶された阪神大震災のとき、その主体は「個人ボランティア」だった。しかし、今回は個人に加え、「組織ボランティア」としてNPOが力を発揮した。仮設住宅での孤立防止、まちづくりの意見集約などに奔走し、現場で必要不可欠な存在になった。私たち自身もそうしたNPOの能力の高さを認識したし、社会全般にこれほど定着したのも初めてだろう。企業も同様に、被災地支援に力を注いでくれた。CSR(企業の社会的責任)という言葉がこれだけ浸透したのは、まさにこの震災以降の現象だろう。

行政、NPO、企業の三位一体

では、産業やコミュニティの再生に国はどう関与したのか。重要な取り組みの1つが、そうしたNPOや企業との連携だった。現場でコミュニティ再生などに奮闘するNPOの後方支援や、現地事業者と東京の企業をつなぐマッチングなどに取り組んだ。

例えば、「結の場」だ。これは「新商品の開発手法がわからない」「施設は復旧したが、販路がない」。そういった被災企業が抱える課題に対して、東京の大手企業がノウハウを提供するマッチングの場だ。2012年11月以降、岩手・宮城・福島3県の各地で両者を集めたワークショップを開催。これまでのマッチング総数は264件に上る(2016年度までの実績、復興庁調べ)。

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「結の場」では被災企業と、東京などの大手企業によるワークショップを各地で開催。

被災自治体の応援職員などとして外部の民間人材を派遣する「WORK FOR 東北」も、その1つだ。これは、復興庁と日本財団、一般社団法人RCFとつくったスキームだ。首都圏の40代前後を中心に、産業やまちづくり、コミュニティ支援の分野で計166人が3県に赴任した(2016年9月末まで)。

そうした中、国の役人自身の意識も大きく変わっていった。彼らが異口同音に口にするのは、「しんどかったけど、やりがいがあった」という言葉だ。国会議員や業界団体と対峙することが多かった霞ヶ関の役人が、これだけ現場に足繁く通ったことはなかった。そこで苦しんでいる人の声を聞けば、「所管外だ」「前例がない」なんてことは言っていられない。苦しむ現場のために、どうにかして知恵を振り絞らなければ。そんな思いに駆られる職員がたくさん生まれた。

住まいの再建は9割完了。これからは福島だ

あの震災から、丸7年が過ぎた。津波と地震の被災地域の復興は、着実に進んでいる。特に最も重要な要素である住まいの再建は、3県の災害公営住宅は94%、防災集団移転促進事業は97%(戸数)が完了した(2018年1月末時点、復興庁調べ)。もちろん、災害公営住宅のコミュニティ支援などは必要だが、”仮設から本設へ”という整備は完成が見えている。

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「結の場」のこれまでのマッチング件数は260件を超える。

ただ、原発事故の影響が大きい福島は事情が異なる。2017年春、放射線量が高い帰還困難区域を除き、多くの地域で避難指示は解除された。少しずつ住民が戻り、賑わいを取り戻している場所もある。しかし、帰還を巡る住民の意向は様々で、何より廃炉には長い年月がかかる。残された課題は少なくない。それらに全力を注ぐ必要がある。

ーBeyond2020 私は未来をこう描くー

後継者問題に何ができるか

住まいの再建にめどが立ち始めた、特に岩手と宮城県。これからは、産業とコミュニティをどう持続的に維持・発展させていくかが問われる段階に入っていく。

私が考える今後のキーワードは、「産業」と「担い手・後継者」だ。いくら立派な高速道路を整備しても、いくらきれいな商店街をつくっても、魚屋が店をたたみ、後継者が育たなければ、その地域は衰退の道を辿らざるを得ない。農業も漁業も水産加工業も、これからは「家業」ではなく「事業」にしていく必要がある。従業員をたくさん雇って、いい給料を稼げる。そうした事業への転換と進化だ。

岩手県宮古市の重茂半島にある、重茂漁業協同組合はいい例だろう。ここは養殖ワカメなどで国内随一の生産量を誇る。震災による津波で大打撃を受けたが、ワカメのブランド化に取り組むなどして再生の道を辿っている。ここで働く人たちは、地域の平均収入よりも高い収入を得ているという。

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被災した自治体などに民間の人材を送り込む「WORK FOR 東北」

地域産業の衰退は、後継者不足に起因するところが大きい。息子や娘が東京や仙台に行ってそのまま帰ってこないのは、都会で給料も高い企業で働くことに価値の比重が置かれているからだろう。若い世代の多くが希望する就職先は、都市部の企業、次に地元の市町村役場、農業や漁業はその次にやっと浮上する。その順序を逆転しないといけない。魅力的な働き口があるかどうかが、若い世代の定住や後継者の育成の鍵を握る。

そうした人材不足を補う試みとして注目しているのが、リクルートキャリアが自治体や地元企業などと行なっている「マチリク in 気仙沼」だ。最大の特徴は、単なる職業紹介ではなく、就職後もアフターケアを行うことで定着率を高めている点にある。この仕組みは岩手県釜石市と大槌町でも実施しており、定着率は9割ほどに達しているという。3年以内に離職する若者が多いと言われる中、抜群の定着率だ。

こうした取り組みが広がることによって、この先50〜60代の現役世代が一線を退いた後に、次の世代を担う30〜40代が数多く現れ、地域で活躍する姿に期待したい。

国は福島への”責任”がある

前述したように、福島の復興にはまだ長い時間がかかる。それから、”元通りの町には戻らない”ことも前提にすべきだ。復興庁の住民意向調査でも、双葉町などいくつかの自治体では「戻らないと決めている」と答える人が半分以上いる。すでに避難指示が解除された地域でも、帰還率は3%〜90%ほどまでバラつきがある。福島第一原発は稼働しないため、産業構造も事故前とは大きく変わる。

ただ、現場に立って今何ができるのかを考えれば、おのずと選択肢は絞られてくる。現時点で集中すべきポイントは2つだ。1つは、戻りたいと考えている人にどれだけ早く戻れる環境をつくるか。もう1つは、新しい産業をどう呼び込み、成長させるかだ。

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「WORK FOR 東北」を通じて岩手・宮城・福島3県に計166人が赴任した。

そのためにも、インフラの復旧は今後も着実に進めていく。病院などの公的サービス、スーパーマーケットなどの商業サービス。こうした環境整備はどんどん加速させる。産業では、国と県が主導して進めている「イノベーション・コースト(福島・国際研究産業都市)構想」がある。廃炉やロボット、再生可能エネルギーなどの分野でプロジェクトの具体化を進める。

今進んでいるベクトルは間違っていない。そのうえで、重要なことは国が最後まで”責任”をもつことだ。決して”支援”ではない。地震と津波は天災だが、原発事故は東京電力と政府に責任がある。忘れてはならない基本として、肝に銘じている。

震災後を生きる私たちが問われていること

「社会の財産」。2018年3月、日経新聞で連載しているコラムにつけたタイトルだ。その冒頭で私は、こう書き記している。「東日本大震災は、私たちに大自然の脅威を見せつけた。しかし同時に、日本社会の強さも見せてくれた」と。

全国から多くの義援金や物資が届き、多くの人がボランティア活動に参加した。私たちは忘れかけていた”共助”の精神を思い出し、それが一気に広がった。社会は自助と公助、そして共助のバランスで成り立っている。何でもかんでもモノやカネで解決できるわけではなく、みんなで助け合う。これは、日本の大きな資産だろう。

あのときの共助の意識が今も変わらず広がっている部分と、そうでない部分がある。学校のいじめはなくならないし、電車で妊婦や高齢者に席を譲らない人もいる。親切な日本社会の強さ、つまり共助の心を、災害のときだけでなく平常でも発揮できないか。行政が法律や予算でつくれるものではない。国民1人ひとりが、つくり上げるしかないだろう。東日本大震災後を生きる私たち1人ひとりに、問われているのではないか。

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